いとしまサイエンスキャラバン2007
今回の背景
いとしまサイエンスキャラバンは、九州大学の伊都地区へのキャンパス移転に伴い、科学を通じた「九州大学」と「糸島地域」の出会いの場・ネットワークづくりをテーマに、「大学の研究ってどんな内容なの?」という興味から、「科学ってむずかしい?」と素朴な質問まで、大学の研究者と糸島地域の方々が向き合い、話し合うことで、「科学」を通じて九州大学をもっと身近に感じてもらうために、昨年より行われている。昨年は「食・農」といったキーワードを掲げ、そのキーワードに合った九州大学の研究者各2名に講演してもらうことで、九州大学で行われている研究を糸島地域の方々により分かりやすく接してもらうことに成功した。計3回のいとしまサイエンスキャラバンを行い、総参加者数は約300名近くにも上っている。今回は2007年一回目のいとしまサイエンスキャラバンとして、行われた。
いとしまサイエンスキャラバン2007について
いとしまサイエンスキャラバンは、九州大学知的財産本部の協力もあり、科学技術振興機構 平成19年度地域科学技術理解増進活動推進事業「調査研究・モデル開発」に採択されている。この事業の中の一つとして、大学と地域のネットワーク作りから、さらに大学の研究への展開のモデルも検討されており、実際、昨年行われたサイエンスキャラバンで講演された先生方の研究の中から、「地中熱を利用した省エネプロジェクト」「芥屋カブの研究」「健康な土・土壌の研究」といった糸島地区ならではの研究が立ち上がり、発展している。これは現在、全国で行われているサイエンスコミュニケーションを目的とした活動の中では特質すべき成果といえる。今年度はキーワードを「環境にやさしい科学」に設定し、そのキーワードと地域の人々に合ったテーマを選択し、サイエンスキャラバンを行う予定である。
いとしまサイエンスキャラバン2007
環境にやさしい科学とは? ~九州大学の最先端研究を通じてエネルギー問題を考える~
・開催前
当日会場である前原市役所に向かい、まず驚かされたのが参加者の自家用車の多さである。前原市役所に設置してある駐車場に入りきれず、出来るだけ邪魔にならないように、車を敷地内に並べている様子から、今回のサイエンスキャラバンも多くの来場者があることを確認できた。実際に会場に入ると、100席近い席はほぼ満席となっていた。参加者は、中年~高齢の男女の方々が多く、おそらく前原市を中心とした地域の方だと思われる。数名、小学生くらいの子供も参加しており、幅広い年齢層の参加者となっていた。
会場の準備等のスタッフは、いとしまサイエンスキャラバンのスタッフだけでなく、前原市役所の職員の方々も加わり、10名ほどが活動していた。
配布されていた資料には、今回のスピーカーの先生方のプレゼン資料、地域のお知らせ等のチラシ、今回のサイエンスキャラバンで使用する質問用紙、終了後に回収するアンケートがあった。質問用紙はスピーカーのプレゼン終了後の休憩の際に、参加者に質問・疑問を記載してもらい、回収し、その後のディスカッションでその中から質問を行うといった方式で使われる。
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| 写真1 会場の様子 | 写真2 モデレーターによる説明 |
・今回のスピーカー
今回のいとしまサイエンスキャラバンのテーマである「環境にやさしい科学とは?」に沿って、水素を利用したクリーンエネルギーについて九大工学研究院の佐々木一成教授、そして地中熱を用いた省エネルギーについて同じく九大工学研究院の藤井光准教授がスピーカーとして招待された。
実は2005年12月に九州大学伊都キャンパスにある水素ステーション実証試験設備にて配管が破裂する事故があり、水素を用いた施設ということも加わり、糸島地域の人々に少なからず不安を与えた事故となった。このような背景もあり、今回の佐々木教授の講演は、糸島地域の人々にとっては大変興味深い講演となるものであるといえる。
また藤井准教授の地中熱の省エネに関しては、昨年のサイエンスキャラバンの際に、飛び込みプレゼンという形で講演を行ったところ、すぐに糸島で共同研究先が見つかり、現在、その地中熱を利用した省エネルギーの研究をおこなっているということで、地域の人々にとって自らの生活に十分、関わりあるテーマということで、こちらも興味深い講演になると思われる。
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| 写真3 佐々木教授による講演 | 写真4 藤井准教授による講演 |
・いとしまサイエンスキャラバンスタート
いとしまサイエンスキャラバンのモデレーターである九大知的財産本部の中武助教より、趣旨説明、スピーカーの紹介があった後、佐々木教授から講演が始まった。
やはり九大施設での事故に対する話からスタートし、水素を用いた燃料電池のクリーン性、現在の燃料電池研究の状況、また簡単な水素燃料電池を用いて、モーターを稼動させる実演を行い、手軽に安全に使うことの出来る燃料電池を紹介してもらった。
次に藤井准教授より、地中熱を利用するヒートポンプの原理、利点と欠点、実際に現在糸島地区で行っている実験について、糸島地域が地中熱利用に適している点、家庭で地中熱を利用する場合にコストなど、かなり実生活に即した講演をしてもらい、参加者も興味深く、聞き入っていたようである。
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| 写真5 水素燃料電池の実演 | 写真6 実演を見入る参加者 |
熱の入った講演で予定していた時間をオーバーしたこともあり、その後の休憩、質疑応答の時間は短縮されて進められた。休憩時には、参加者が思い思いの質問を用紙に記載し、スタッフはそれらを回収、次の質疑に間に合うように選別をおこなっていた。
質疑では、佐々木教授に対しては、燃料電池自動車の価格についてや研究現場を見学したいなどの要望、藤井准教授に対しては、地中熱研究と糸島地域の文化財との関わりや地中熱に利用した水の地中への影響など、質問が行われた。参加者の子供から、燃料電池の実験装置の横に置いてあった模型の車について質問された佐々木教授が、その模型の車をその子に手渡して説明している様子は、研究者というよりは、子供に夢を伝える科学者のような様子でサイエンスコミュニケーションとして素晴らしい場面であったと思う。
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| 写真7 休憩時のアンケート記入 | 写真8 質問の張り出し |
いとしまサイエンスキャラバン2007に参加しての感想
今回のサイエンスキャラバンにおいて、テーマに「環境・エネルギー問題」といった難しい問題も含まれるテーマを選んでいる点は重要だと思われる。現代社会においてこのテーマは切り離せない大きな問題であり、また前述の水素事故も関連して、糸島地域の人々に、九州大学の研究とこのテーマとの関わりを理解してもらう場を創ることは、大学の義務として取り組むべきことであると感じた。前年度の「食・農」といった親しみやすいテーマではなく、今回のこのようなテーマであっても100名を超える参加者があったことが、地域の人々の関心が高いことが実証された結果であるといえる。
今回、水素エネルギーといったまだ実用段階ではない研究と、地中熱という実用段階に来ている研究というレベルの違う二つの講演であったが、どちらの研究も糸島地域の方々にとっては、興味あるものであったといえる。これがもし福岡市中心部で、同じ内容で行った場合、同様の興味、反響があったかというと難しいといえる。やはり地域に根ざした、地域に合ったテーマの選定、スピーカーの選出がいとしまサイエンスキャラバンの大きな特徴であるといえると感じた。
広報に関しては、現在、いとしまサイエンスキャラバン専用のHPを開設している他、地元の新聞紙に広告を掲載するなど、十分に行われていると思う。 いとしまサイエンスキャラバンが目指している「九州大学」と「糸島地域」の出会いの場・ネットワークづくりという観点では、サイエンスキャラバン後の懇親会にて、スピーカーの先生方が地元の人々から絶えることなく質問、話を受けている様子からも十分に達成していると思う。地中熱利用に関しては、参加されていた女性の方々からも「うちの井戸は使えるか?」「実際にいくら位必要なの?」といった質問を受けており、新たな研究の糸口を作る場になっていると感じた。
講演自体の内容としては、水素燃料電池による実演を盛り込み、参加者にも入りやすいものにしていたが、やはり燃料電池といった最先端の研究ということもあり、言葉や内容に関して難しく感じられる部分があった。これに関してはスピーカーの先生方のもう少し柔らかく噛み砕いたプレゼンを期待したい。
今回のサイエンスキャラバンの最後に次回のサイエンスキャラバンの告知があった際に、会場の参加者が個々でその予定を、メモを取っている様子からこれからもサイエンスキャラバンがしっかりと根付いていく予感を感じさせられた。今後、いとしまサイエンスキャラバンの活動が、糸島地域の人々、福岡の中でしっかりと認知され、九州大学との連携、共生というものがよりスムーズになることを願いたい。
(江藤 信一)
