いとしまサイエンスキャラバン2008
今回の背景
いとしまサイエンスキャラバンは、九州大学の伊都地区へのキャンパス移転に伴い、科学を通じた「九州大学」と「糸島地域」の出会いの場・ネットワークづくりをテーマに、「大学の研究ってどんな内容なの?」という興味から、「科学ってむずかしい?」と素朴な質問まで、大学の研究者と糸島地域の方々が向き合い、話し合うことで、「科学」を通じて九州大学をもっと身近に感じてもらうために、昨年より行われている。昨年は「食・農」といったキーワードを掲げ、そのキーワードに合った九州大学の研究者に講演してもらうことで、九州大学で行われている研究を糸島地域の方々により分かりやすく接してもらうことに成功した。2006年度は計3回のいとしまサイエンスキャラバンを行い、総参加者数は約300名近くにも上っている。今回は2007年9月に福岡県前原市でおこなわれた第1回、2007年11月に福岡県糸島郡志摩町でおこなわれた第2回に引き続き、3回目のいとしまサイエンスキャラバンとして行われた。
いとしまサイエンスキャラバン2008
環境にやさしい科学とは? 太陽と水を有効に活用した暮らし~太陽光発電と温泉~
・開催前
今回のいとしまサイエンスキャラバンのテーマは、「エネルギーの有効利用」ということから、「太陽光発電と太陽」と「温泉と地球の持つエネルギー」といった組み合わせを考慮し、我々の生活に近接した研究内容とした。昨今の石油燃料の高騰に対する代替エネルギーの話題、そして地元の二丈町にある「二丈温泉きららの湯」「まむし温泉」といった地元の産業に関わる話題といった地元の方、そして近隣の方々にも興味深い話になると考えられる。
開催前に会場にて事前の打ち合わせが行われ、お互いの自己紹介と前回のサイエンスキャラバンとの違いについて説明があった。まず進行については、これまでの中武貞文氏に加えて、九州大学知的財産本部の宮原耕史氏の二人で進めていく点について説明が行われた。これは中武氏が2008年2月から、鹿児島大学の産学官連携推進機構へ異動されたため、進行と今後のフォローの必要性を勘案し、知財本部の宮原氏にも進行役として加わるとの説明であった。
次に、エコバックについての説明があった。このエコバックは二丈町と九大農学研究院佐藤先生との活動の中で糸島地区のゴミを減らそうという目的で作られた「いとしまエコバック」というものであり、今回、このバックを参加者への配布資料入れとして配布するとのことであった。今年度のサイエンスキャラバンのテーマが「環境にやさしい科学とは?」とあるだけに、紙である封筒に代えて、再利用可能なエコバックに出来たことは、素晴らしい展開だといえる。
また、差し棒の採用と発表者の立ち位置に関しても連絡があった。最近のプレゼンテーションではレーザーポインターが用いられるのが通常であるが、参加者から「分かりづらい」という声があり、敢えて差し棒に変更したこと、そして参加者の座る位置によって、前方の資料が見えづらくなることへの改善として、発表者の立ち位置を明確にするとの連絡があった。この2点は、一見些細な改善に思えるが、参加者の意見をしっかり汲み上げた改善を行っている素晴らしい点だと感じた。
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| 写真1 いとしまエコバック | 写真2 今回のアンケートパネルの結果 |
そして開場。今回も、前回から導入された「アンケートパネル」が準備されており、参加者は入り口で「年齢」「住まい」「職業」「参加回数」のアンケートを回答し、会場に入るという形態を取っていた。アンケートパネルからは、今回の参加者の特徴として、
1.10代未満の子の参加があったこと
2.通常のサイエンスキャラバンよりも40代の参加者が少ないこと、
3.福岡市からの参加者が多いこと、
4.農家の方の参加者がなかったこと
がわかった。今回、このアンケートパネルの記入の様子を近くで観察したところ、ボードに対して回答するシールが小さかったため、いとしまサイエンスキャラバン参加者の大部分を占める高齢の方の参加者が取り扱いに苦慮する様子が散見された。もう一回り大きなシールに変更すると、より参加者に優しいアンケートシステムになると考えられる。
今回のいとしまサイエンスキャラバンは、事前申し込み参加者は、約50名あったが、当日飛び込みの参加者を含めて約80名の参加者が来場し、会場はほぼ満席の状態でスタートした。
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| 写真3 アンケートパネル回答中 | 写真4 満席の会場 |
・今回のスピーカー
今回のテーマである「太陽と水を有効に活用した暮らし」ということで、2名の研究者にスピーカーとして参加いただいた。まず太陽光の有効利用ということで九大システム情報科学研究院の白谷正治教授、そして水の有効利用ということで九大工学研究院の藤光康宏准教授が、それぞれ自らの研究を糸島地区の話題を交えて話題提供いただいた。
白谷氏はシステム情報科学研究院の電子デバイス工学部門にて、太陽光発電、ソーラーパネルの研究をされており、再生可能エネルギーのひとつである太陽光発電の有効性、将来性についての話題提供をお願いした。また、藤光氏は地球熱システムを研究されており、地球のエネルギーで湧き上がる温泉について福岡市の様子を交えて話題提供頂くようお願いした。
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| 写真5 白谷正治先生 | 写真6 藤光康宏先生 |
・いとしまサイエンスキャラバンスタート
中武氏と宮原氏の二人の進行で、今回のいとしまサイエンスキャラバンがスタートした。先ずいとしまサイエンスキャラバンの趣旨、これまでの流れ、本日のスケジュール等の説明があり、その中で“アンケートパネル”の結果紹介もあり、今回は2006年から数えて6回目のサイエンスキャラバンにあたり、そのすべてに参加されている方がいらっしゃるということが紹介された。その後、各スピーカーからのプレゼンテーションが約25分ずつ行われた。
白谷氏からは「太陽光発電はエネルギー・環境問題の救世主になれるのか?」というタイトルで、二丈中学校に設置されているソーラーパネルの紹介から太陽光発電の現状、今後について話があった。白谷氏から「家庭に太陽光発電を取り入れている方は?」という質問が会場の参加者に対して行われた。それに対して4名の方の手が挙がった。
「(本日の)参加者80名に対して、太陽光発電を利用している方が4名ということで、日本の太陽光発電の普及率とほぼ同じですね」
とのコメントがあり、「普及率」という観点から話題がスタートした。日本は太陽光発電の普及率は高い方であるが、まだ価格が高い点がネックとなり、普及の障害になっていること、太陽光発電の寿命は周りの金属の腐食が決めていてパネル自体は再利用が可能であること、風力発電・バイオマスなどの再生可能エネルギーと太陽光発電との比較など、太陽光発電とエネルギー問題とを色々な面から紹介していただいた。講演中には「太陽のエネルギーで地球は救える!!」「エネルギー問題の切り札は太陽光発電!!」と力強い声もあり、参加者も興味深く聴講していた。
次の藤光先生からは「地域資源としての温泉水の有効活用の可能性は?」と題して話題提供を頂いた。「地球熱システム」という概念の説明から、福岡市にある温泉の事例を紹介しつつ警固断層との温泉の関わりといった防災についてもご紹介いただいた。後半、温泉の探索に話題が移り、地下を構成する花崗岩や花崗岩が持つ放射性物質、そして重力と温泉の関係についての説明が行われた。実際に重力の変動があるところに温泉があるといった技術内容の紹介が行われた。また、藤光先生の研究室が担当した温泉の探査率は10割と紹介され、参加者からどよめきが起こるなど、会場の興味の高さを伺うことができた。
どちらの先生も指し棒を使用しており、参加者は資料をしっかりと追えていた様子であり、今回の運営の改善については一定の効果があったように思われる。
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| 写真7 中武氏によるアンケート結果の紹介 | 写真8 宮原氏による概要の紹介 |
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| 写真9 白谷先生からの話題提供 | 写真10 藤光先生からの警固断層の説明 |
(毎回のことであるが)今回も先生方の熱の入った講演のため、少々時間をオーバー気味で休憩に入った。休憩中はこれまで同様、参加者には配布資料の質問用紙に「各先生方への質問」や感想などを記入、スタッフが回収し、随時掲示する方式で、質問が集められた。質問の回収・集計の間、飛び込みプレゼンということで、二丈町から今回配布されたエコバックの趣旨の説明、九州大学ユーザーサイエンス機構から3月に行われるシンポジウムの紹介、前原市からいとしまクイズの紹介がそれぞれあり、スムーズに次の質疑につながっていった。
質疑では、いつごろソーラーパネルが安くなるのかという質問から、温泉を使った具体的な発電開発についてなど質問があり、それぞれの先生が丁寧に答えていた。特にソーラーパネルの価格、温泉調査にかかる費用に関する質問には参加者一同、真剣に聞き入っていたように思われる。質問の中には、「太陽光発電と太陽電池は同じものですか?」という本当に率直な質問(答え:どちらも同じもの)や、「おすすめの温泉は?」といった質問もシンポジウムや講演会といった場ではなかなか出づらいが、質問紙による質問だと気軽に聞くことができ、またそれにしっかりと答えてもらえるところなど、大学を身近なものに感じてもらう重要な要素のひとつであると感じた。
質問はまだたくさんあったようだが、時間の関係もあり、約6つの質疑応答で今回のサイエンスキャラバンは終了した。本年度は今回のサイエンスキャラバンで終了となり、また2008年度も行うことがお知らせされ、終了となった。
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| 写真11 今回集まった質問 | 写真12 質問に答える白谷先生 |
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| 写真13 質問に答える藤光先生 |
いとしまサイエンスキャラバン2008に参加しての感想
今回のいとしまサイエンスキャラバンのテーマが「太陽と水を有効に活用した暮らし」ということで太陽光発電と温泉といった、糸島地域に限らず一般の人にとって大変興味ある、しかも生活と身近なテーマに設定したことは前回のテーマである「ゴミ問題」同様、素晴らしい点だと思う。昨今の環境への影響、ガソリンなど石油価格の高騰などのため、太陽光発電は家庭でも取り入れることが出来る再生可能エネルギーということで、一市民として、ぜひ聞いておきたいテーマであった。温泉に関しては、二丈町にある二つの温泉も絡めて糸島地域にとって新たな産業の一つになりうるテーマであったというのも良い点である。そういった意味でも、地元の人々もそれ以外の人々にも十分に魅力あるテーマおよび先生方の講演だったと思う。
前回のアンケートパネルの準備などに加えて、エコバックの配布、差し棒の使用、立ち位置の確認など参加者の声をしっかりと次回のサイエンスキャラバンにフィードバックし、よりよいサイエンスキャラバンを実現すべく努力している点も素晴らしいと感じた。今回も広報に関して前回同様、いとしまサイエンスキャラバン専用のHPをはじめ、九州大学HPなどを使い、しっかりとPRされていた。
サイエンスキャラバン後の懇親会では、いつものようにスピーカーの先生方が地元の人々から絶えることなく質問、話を受けており、恒例の様子なっていることが、サイエンスキャラバンが2年間続けたことで培われてきた大事なものであると感じた。
今年度のサイエンスキャラバンは科学技術振興機構 平成19年度地域科学技術理解増進活動推進事業「調査研究・モデル開発」に採択されスタートし、前原市、志摩町での開催はその事業として開催された。またスタッフは日本各地で開催されているサイエンスカフェに参加し、サイエンスキャラバンと他のサイエンスコミュニケーションとの違いを肌で感じており、それを踏まえても「いとしまサイエンスキャラバン」はその趣旨、地域性、発展性など特筆すべきものである。また当初から目標としている「九州大学」と「糸島地域」とのネットワークづくりが着実に進んでいる素晴らしいものになっている。
来年度もこのコンセプトや雰囲気がしっかり受け継がれ、継続されることを心より期待したい。
九州大学 ユーザーサイエンス機構
特任講師 江藤 信一

